株式会社 長田工業所
代表取締役 小林 輝之 さん
㈱長田工業所(坂井市春江町西長田41-1-1)はプラント設備の改修工事、階段の手すりや安全柵、足場等の金物加工品をオーダーメイドで提供しています。同社では小林社長を中心に社内のデジタル化を「スモールスタート」で進め、少しずつブラッシュアップを繰り返しながら最適化を図っています。今回は、小林社長からそのプロセスについて話を伺いました。
根拠ある見積もりと円滑な情報共有を目指す
当社は2021年で創業30周年を迎えました。「アイアンプラネット」と題し、工場内で溶接体験等ができる一般顧客向けコーナーを設けるなど、私達の仕事を知ってもらう事業にも積極的に取り組んでいます。その甲斐あって、若手社員の採用にも結び付き、少しずつ従業員を増やすことができましたが、数年前まで顧客から見積依頼があった際、担当する職人の経験に頼っておおよその社内加工賃を算出し、見積書を作成していました。
しかし、それでは職人ごとに金額のズレが生じてしまいます。当社はオーダーメイドで請け負っているため、毎回異なった製品を造ることが多く、正確かつ根拠のある金額設定ができないと顧客の信頼を失いかねないと思いました。
また、以前は担当した職人が見積もりから納品まですべて1人で行っていましたが、職人は現場での作業に集中させ、受発注や書類作成などは事務員に任せるよう分業化したこともあって、より現状の把握を徹底する必要が出てきました。そこで、「職人の作業時間・工程管理」のデータ化と「従業員間の情報共有」のため、少しずつデジタル化に取り組み始めました。
デジタルツール導入後は効果の検証を繰り返す
まず、データを蓄積させるためにクラウドサービス「kintone(キントーン)」を導入しました。その後、試行錯誤しながら、使用するデジタルツールや社内での決め事を微調整していきました。
はじめは、作業内容ごとに専用のICカードを開始時と終了時に読み込ませ、作業時間を記録していました。しかし、当社には20種類以上の作業があるため、すべてに専用のICカードを作るとかさばってしまい、その管理・保管が面倒でした。また、開始と終了とで読取り機器が別だったので、現場でやや混乱を招く要因にもなっていました。
デジタル化の第一段階では、上記のIC カードを下記の機器にかざしていました。
次に、ITベンチャー企業に作業工程の管理アプリの制作を依頼し、読取り機器を廃止してタブレット端末上で作業開始・終了時間、担当者、進捗状況を記録できるようにしました。タブレット端末1台で完結できるので、専用のICカードを探す手間を省けましたが、1つの端末で複数の作業を同時に管理することができず、しかも端末を2~3台までしか購入できなかったので、使用している職人の作業が区切りの良いところに入るまで待ち時間が生じていました。
そこで、全員のスマートフォンに工程管理アプリをインストールしてもらうことで、無駄な待機時間を減らすことができました。
従業員全員がスマホで作業の進捗状況等を確認できるように。
社内の情報共有については、当初「LINE(ライン)」で行っていましたが、事務員はパソコンで、現場の職人はスマートフォンで見ることが多いので、どの端末でも見やすい「slack(スラック)」というチャットツールに変えました(公私を分けるのにも役立ちました)。1日の業務スケジュール等をデータで見るように促していますが、中にはホワイトボードのメモを見たいという従業員もいるので、その写真をスラック上にアップロードしたりしています。
自由にできるがゆえに、個人のスキル差が顕著になりますので、みんなが働きやすい方法を目指すよう心がけています。
成果を実感し、新たなツール導入で更なる変革へ
デジタル化を進めるにあたり、社内では「やってみよう」という全体の機運が高まって、若手がベテランに教えるなど反発はありませんでした。ただ、最初は端末を使用するのを忘れてしまう職人もいたので、習慣付けるのに少し苦労しました。
今では、これまですり合わせに時間がかかっていた材料の発注や製品の納品に関するヒアリング時間を年間で約140時間削減し、見積金額について「なぜこの金額なのか」正確に伝えられるようにもなり、顧客満足度の向上に繋がりました。私達の仕事は成果物をどこに納めたか公表できないこともありますので、口コミで取引先を広げていくことが大切です。その面では、成果があったと思います。
「スモールスタート」で補助金も活用しながら、できるだけコストをかけないよう様々なツールを継ぎはぎしてデジタル化を進めてきましたが、今後は多少お金をかけてでもより使い勝手の良いツールを導入していこうと考えています。