行政手続きはスマホで完結、待ち時間も紙も不要。そんな高度にデジタル化された社会が、北欧ではすでに現実となっている。デジタル競争力で世界トップクラスに位置するデンマークとスウェーデンを訪れ、先進的な取り組みに触れ、業務効率化や新たなビジネス展開の可能性を探った。
実施期間:2025年6月17日(火)~23日(月)
視察先① デンマーク(👑デジタル競争力世界3位 👑国連電子政府世界1位)
視察先② スウェーデン(👑デジタル競争力世界5位 👑イノベーション力世界2位)
フレデリクスベア市役所・保険センター
フレデリクスベア市(人口約10万人)はコペンハーゲン市域に位置する自治体で、市役所窓口では予約・受付を一元管理する「FrontDesk」システムが導入されている。市民はオンラインで来庁予約を行い、当日は庁舎内の端末でチェックイン、担当職員へ自動通知されるため、待機列はなく静かな環境が保たれていた。導入により窓口業務は約4割削減され、来庁者データを活用した人員配置分析も可能となった。高齢者への支援は導入初期のみ係員が対応し、現在は自力操作を基本としつつ電話やチャットボットで補助している。9割以上の市民が問題なく利用しており、医療・福祉施設でも同様の仕組みが活用され、待ち時間短縮などに効果を上げている。

市役所窓口にて説明を聞く 写真奥が窓口カウンター
Digital Hub Denmark(デジタル ハブ デンマーク)
デジタル競争力世界上位のデンマークは、官民連携でデジタル産業を推進し、自国の経験を海外に発信する拠点を設立している。視察では、1968年の社会保障番号導入に始まり、2001年のデジタル署名、2004年の電子口座、2007年のデジタルID制度と進化してきた経緯が紹介された。現在は第3世代「MitID」により、税務、医療、給付金申請などほぼ全ての行政サービスがオンラインで完結する。制度は事実上必須であり、国民はリスクを理解しつつ政府のセキュリティ対応と改善努力を信頼して受け入れている。反発が少ない背景には、長年にわたる政府と国民の信頼関係の蓄積があることが示された。

デンマークのデジタル化の歩みを記したプレート
e-Boks社(イーボックス社)
e-Boks社は、政府・自治体や金融機関などから国民・企業に電子文書を安全に配信・保管する電子私書箱サービスを提供している。2014年以降、15歳以上に利用が義務化され、納税通知や医療情報、年金、保険、銀行文書など多様な情報が長期保存され一元管理可能である。視察では制度設計や運用実態が紹介され、利便性から国民に広く日常利用されていることが示された。e-BoksはGmail等と異なり、認証を受けた利用者のみが専用基盤で送受信できる仕組みで、第三者が介入できない。2025年末には郵便配達廃止が予定されており、同サービスは今後社会インフラとして一層の重要性を担うと見込まれる。

DHD内のプレゼンルームにて説明を受ける
Queue-it社(キューイット社)
Queue-it社は、アクセス集中によるシステム障害を回避する「仮想待合室」ソリューションを提供するデンマーク発のIT企業で、2010年にパン屋の順番待ちシステムから着想を得てコペンハーゲンで設立された。従業員は約200名、出身国は45か国以上に及び、サービスは世界172の国・地域で導入され、年間250億人が利用する。CEOのエッセンドロップ氏から会社概要が、日本人スタッフの徳永氏から技術的特徴と導入効果が、石本氏からデンマークのデジタル化の現状が説明された。日本も重要市場と位置付けられ、東京オフィス開設が進められている。意見交換では特にデンマークの働き方に関心が集まり、成果主義の評価制度やタイムカードの不存在、16時退社後の在宅勤務、年6週間の有給休暇(夏季は3週間連続取得が一般的)などが紹介された。最後にオフィスを見学し、フリーアドレス制や最小限の設備で働くスタイル、若手や女性社員が多い国際色豊かな職場環境が印象的であった。

CEOおよび日本人スタッフより話を伺う
CopenHill(コペンヒル)
コペンハーゲン市の中心市街地近郊に位置する廃棄物発電所で、正式名称はアマガーリソースセンター(ARC)。年間44万トンの廃棄物を処理し、15万世帯へ電力と地域暖房を供給する。屋上にはスキー場やハイキングコースがあり、世界的に注目される複合施設となっている。出資は5自治体で、焼却灰の最終埋立は2%にとどめ高い資源循環率を実現。海外からも有償で廃棄物を受け入れ、循環と収益性を両立している。さらに2023年からはCO₂回収・貯留(CCS)の試験導入を開始。視察では屋上でスキー客やイベント準備の様子も確認され、発電所がエネルギー供給に加え、市民のレクリエーション空間としても活用されている点が印象的であった。

発電所内を見学
ストックホルム市スマートシティ
ストックホルム市では、環境配慮型都市開発の先進モデルとして複数のスマートシティプロジェクトが進められており、その代表例が「ハンマルビー・ショースタッド」と「ロイヤルシーポート」である。いずれも旧工業地帯や港湾地区を再開発し、再生可能エネルギーや脱炭素交通、資源循環、デジタル技術を活用した都市運営最適化に取り組んでいる。ハンマルビー・ショースタッドでは、エコ循環型インフラとICT活用について説明を受け、18年前に当所視察団が訪問した際と変わらず美しい景観と良好な住環境が維持され、長期的に成功していることが確認された。続いて訪れたロイヤルシーポートは、その成果を踏まえつつ、より大規模で先進的な開発が進められており、2030年完成を目標に12,000戸の住宅と35,000の職場、教育・文化・商業施設を備えた複合都市の形成が進行中である。両地域はICTとデジタル技術を都市づくりに統合し、環境負荷を抑えつつ快適な都市機能を提供するスマートシティの先進事例として注目される。

ハンマルビー・ショースタッドのゴミ自動回収システム
視察を終えて
本視察を通じ、デンマークでなぜデジタル化が進み、どこまで浸透しているのかを実感できた。政府主導の施策を国民が受け入れ、効率化の成果を共有したことが信頼を生み、さらなる推進につながっている。待ち時間のない市役所やスマホ完結の生活、スウェーデンで見た環境配慮型スマートシティの姿はいずれも日本の将来像を示唆しており、デジタル化の波を先取りして地域企業の新たなビジネス機会へと結びつけていくことが重要である。