8月24日(水)、DX推進を見据えた企業が、その第一歩を踏み出すためのヒントを探る勉強会「DX寅の穴」の第2回を開催しました。今回は社内DXを進めている県内企業社から、初めに着手したことや、どのような社内体制を構築したのかご紹介いただきました。その後、参加者でグループに分かれ、事例紹介から得られた学びや気付きを共有しました。
第1部 県内企業2社からのDX取組み事例紹介
【事例発表①】町工場だってデジタル化!溶接職人たちの奮闘
「飛行機のコックピットの計器ように、現状をリアルタイムに把握したい」と話す㈱長田工業所の小林輝之社長。
株式会社長田工業所(坂井市)は安全柵や階段等の製造と設置工事をオーダーメイド対応しています。小林社長は毎回単価や納期が異なり、職人ごとの作業時間も変わるため工数管理、加工賃の算出に苦労していました。
そこで、小林社長はリアルタイムに進捗状況を把握し、根拠ある価格を提示するためデジタル化に着手しました。しかし、いきなり思い描くような仕組みは作れないと考え、ⅠTコーディネータやベンダー企業に相談しながら進めることにしました。
まず情報の集約・蓄積には「Google」のスプレッドシートやチャット内容をさかのぼって検索できる「Slack」など、無料で利用できるツールを使用。元々「LINE」で情報共有を行っていたこともあり、スムーズに社内に浸透しました。
また、県の「IoT・AI・ロボット等導入促進事業補助金」を活用しコスト削減を図りつつ、作業ごとに担当者や進捗状況、開始・終了時間を記録する工数把握ソフトを取り入れました。しかし、当時の作業員にとって従来の業務と異なる不慣れな作業だったので、入力するのを忘れてしまうことが度々ありました。そこで、「ソフトで入力をしてくれたら、代わりに日報を廃止するという提案を行ったところ、思った以上に食いついてくれました」とのこと。
従業員向けに工数把握ソフトの導入について説明会を実施。作業員目線で導入する理由を説明しました。
ほかにも、収入印紙代を削減するため契約書のクラウド化(クラウドサイン)を行ったり、タイムカードを廃止してICカードでの出勤管理、年末調整アプリによる書き込み労力の軽減など、現場だけでなく事務作業においてもデジタル化を進めています。
順風満帆にデジタル化が進行しているように見えるものの、すべて一気に始めたことではありませんでした。発表の中で小林社長は「黎明期」「自力改革期」「外部相談期」「発展期」と分けて取組み内容について紹介していました。10年ほど前から段階的に取り掛かり、地道にアプリやソフトを増やして、試行錯誤を繰り返しています。
その間、従業員数が倍増し、受注が多くなるにつれて業務量も増加しましたが、DXに取り組んだ甲斐あって効率よく仕事を回すことができているようです。最近、これまでやってきたことの集大成として、現在利用しているデジタルツール・データを一元化する生産管理システムの購入を決めました。「様々なツールに触れてきたからこそ、自分達にとって最も使い勝手が良いものを見つけることができた」と小林社長は振り返っていました。
【事例発表②】越境ECでデジタル化!海外展開までしちゃった話
山本英治社長(左)と営業戦略室の齊藤潤二さん(右)から越境ECサイトに登録、さらにベトナム事務所を開設した経緯をお聞きしました。
産業機器商社として、ものづくり企業のサポートを行う株式会社福井機工(福井市)は、県内、ひいては国内の競争激化による市場の縮小と売上の減少に危機感を抱いていました。そんな時、中国のアリババ社から越境ECサイトに登録しないか声をかけられました。
当時はアリババのことを詳しく知らなかったものの、世界中の多種多様な企業と電子取引ができ、ランニングコストが月額数万円程度と低コストで始めることができたため、2013年から利用を開始しました。販売商材を幅広く取り扱っているという同社の強みとマッチすると感じ、従来の訪問営業だけでなく、インターネットからも受注できる仕組みがあれば売上アップも見込めると期待していました。
同社のアリババ特設ページ。越境EC事業の売上は登録初年度から300倍に。
しかし、取引先として想定していた中国やタイは既に日本の企業が多く進出しており市場に新規参入する余地がなく、実際に引き合いがあったのはベトナムや発展途上国ばかりでした。また、日本国内とは規格が異なるがゆえに販売できない商材があったりするなど、初めての海外取引に不慣れなこともあって2年ほどは売上がわずか数千円にしかならなかったこともありました。社内でも越境ECに対し、疑問視する声が挙がるようになってしまいました。
しかし、山本社長は「初めてのことだし、すぐに結果を求めない」と辛抱強く見守ることにしました。そして、新入社員を海外事業部の専属として配置することにしました。英語が話せたり、ネット通販に精通していたわけではありませんでしたが、社内でじっくり時間をかけながらノウハウを蓄積し、海外の顧客にもスピーディーに対応できるようになりました。
現在では、年間3億円の売上を計上できるようになり、販売先もベトナムを中心に21カ国にまで広がっています。さらに2019年に、若手社員の強い要望もあり、ベトナム駐在員事務所を開設しました。
今回発表した齊藤さんがベトナム駐在員事務所の初代所長として活躍していました(写真右)。
第2部 自社がまず始めるべきDXについて意見交換
第1回に引き続き、回答をリアルタイムに表示できるアンケートアプリで、参加者は各自のスマートフォンから投稿、意見のみえる化をしながら交流しました。「経営者と社員の温度差を埋めるところから始めたい」という声もありました。
2社から発表があった後、グループで「DXに向けて自社がまず始めるべきことは何か?」をテーマに意見交換を行いました。
参加者からは「デジタル化したい仕事について、把握できている人が推進担当者に向いているのではないか」「部下の意見を吸い上げ、上層部に提言できる中間管理職が必要」「上司に相談できる社風を醸成すべき」などの意見が挙がりました。
当初IT専門相談員で、コーディネータを務めた佐藤宏隆さんは、「今回発表した2社とも取組みのスパンが長い。スモールスタートで取組みはじめ、その中で上手くいったこと、上手くいかなかったことを整理しながら継続することが大切」と総括しました。