取材レポート
2022.11.16

製造部門のDXを皮切りに会社一丸で目指す利益アップ

株式会社 オーカワパン
システム部・Aralead事業部 部長 森本 健嗣 さん

 

パン製造業の株式会社オーカワパン(坂井市丸岡町猪爪2-501)では、月ごとに立てた予算とその実績との差異について比較・検討する予実会議を行っています。営業部門は目標とする売上を達成するものの、生産性は伸び悩み、製造部門はその原因を数値で説明することができずにいました。そこで、原価のみえる化や生産性向上を実現すべくDXに取り組んだ同社は、製造原価管理システム「Aralead(アラリード)」を開発、さらには、このシステムの外販するに至りました。この大きな変革に関わった森本部長から話を伺いました。


目先の売上から利益を出すための思考へ

 

オーカワパンは、福井県を中心に北陸のスーパーに焼きたてのパンを配送しています。日頃の営業の成果もあり多くのパンをお届けしていますが、以前は売上を優先するあまり、最終的な利益に目を向けることができず、薄利多売となっていました。部門の垣根を超えた情報共有ができていなかったため、営業部門は製造現場の状況を把握することなく、業務を行っていました。

一方で、製造現場は手書きで製品名や作業時間、材料の投入数等を記録していました。担当者の記憶や勘に頼っている部分が多く、また記入漏れも散見されました。そのため、製造部門は作業時間、製造コストアップの原因を明言できずにいたのです。

 

製造部門のデータ分析のため管理システムを構築

 

森本部長は社長から「生産性向上の仕組みを構築して欲しい」と指示を受けました。まず製造部門でQCD(品質・コスト・納期)管理を基本に、記録する内容を見直すとともにABC(活動基準原価計算)を実施し、製造原価の算出に取り組みました。

手書きからExcel入力への変更、記録用フォーマットの刷新、専任者の配置などを行い、正確な数値を把握することで、問題点の可視化に注力しました。

各製品の製造原価を算出。どのパンの、どの工程で遅延や問題が発生しているか、数値で確認できるようになりました。

 

基準となる原価が分かった後は、販売計画のシミュレーションに着手しました。以前からパンの生産目標こそ掲げられていましたが、生産計画がありませんでした。一言でパン製造といっても様々な種類、工程があります。工程ごとに作業計画を立てなければ、どの部分を優先的に改善すべきか判断ができません。

これらをExcelで一元化して管理しやすいように、県の「IoT・AI・ロボット等導入促進事業補助金」を活用したり、近畿経済産業局から認定を受け、製造原価管理システム「アラリード」を開発しました。

システム導入に際し、工場にタブレット端末を設置して、ペーパーレス化にも繋がりました。作業時間の管理も兼ね、日報代わりにも役立てています。

端末から全行程の作業マニュアルも確認することができます。

 

「アラリード」開発においては、システム制作会社にそのコンセプト、企画、管理画面の構成について、何度も相談しながら入念に調整しました。その背景には、AIによる工程管理システム導入失敗の経験がありました。

上手く機能せず、コストだけがかかり、単にツールを取り入れるだけでは新たな障壁にぶつかるだけだと痛感しました。どのような仕組みで運用したいのか、どんな情報を集積したいのか等を丁寧に整理する必要性を学びました。

 

生産・販売計画を予測することが会社の成長に不可欠

 

「アラリード」を導入したことで、適正な生地のこね方や焼き加減など標準作業の認定による品質向上、工程計画との差異分析に大いに役立ちました製造現場の進捗状況を誰もが把握できるようになったことで、製造部門は問題が発生した理由を把握でき、営業部門との連携が密に取れるようになりました。

工場や事務所に設置されたモニターで作業時間や現在の工程を共有しています。

 

予実会議でも売上結果ではなく、利益計画が中心議題となり、「利益を生む」という同じ目標に対して、全社的にベクトルを揃えることができるようになりました。

「アラリード」は外販もしており、現在5社6工場に導入されています。導入によって現場の負担が軽減される部分もありますが、業務のみえる化や作業計画と実績の振り返り、製品別の原価算出をまとめて管理できるので、機械ではなく人による作業が多い現場には最適のシステムです。材料費の値上げなどのような外的要因や、繁忙期・閑散期の労務費について予測することが利益確保に重要です。

今後は、各部門でデータ分析に強い人材の育成を行い、製販一体となった組織の強化に取り組みたいと思います。