活動報告
2023.02.08

第3回ものづくりデジタル勉強会「DX寅の穴」開催レポート

 

1月25日(水)、DX推進の第一歩を踏み出すためのヒントを探る勉強会「DX寅の穴」を開催しました。3回目となる今回は、県内の食品製造業2社から、デジタル化によって得られた成果や試行錯誤したことなどについて発表していただきました。
*今回は大雪のため急遽オンライン開催となり、グループ交流は実施しませんでした。


[事例発表①]問題の見える化!稼働率を数値化して生産効率UP!ロス削減‼

 

はじめに株式会社武生製麺(越前市)の西原俊樹生産部長より、IoTを活用し機械設備の稼働状況を見える化、さらに生産性向上を達成した経緯について紹介していただきました。

IoT導入前、長年使用してきた機械設備が頻繁に停止トラブルを起こしていました。しかし、経年劣化によって作業効率が落ちていると判断するためのデータがありませんでした。稼働率やロス率はすべて人の手で記録していましたが、記入漏れや作業員の記憶に頼っている部分が多く、正確な数字とは言えなかったのです。

製造ラインが停止する理由を正しく理解したいと考えた西原部長は、IoT機器を導入し稼働率の数値化に挑戦しました。2021年8月に稼働システムが完成し、問題を見える化するとともに、スタッフの生産数や機械停止時の対応の速さなども把握できるようになりました。

さらに、経年劣化により稼働率が上がらないラインも明らかになり、経営陣が設備投資を行う判断材料となりました。今では4つすべての製造ラインが約95%の稼働率を達成しています。

 

工場内に設置されたシステム画面を見れば設備が稼働中なのか、トラブルによる停止中なのか一目瞭然です。

 

また、IoT導入後、作業員が稼働率やロス率を正確に測れるようになったことを利用して、「自分はこれだけ効率よく作業できている」ということをアピールするため自ずと生産数の目標を立てるようになり、モチベーションアップにも繋がりました。

 

作業員から更なる効率アップのための改善案を提案されるようになったこともポジティブな変化と捉えています。

 

受講者からの「従業員からの反発はなかったか?」という質問に対して、西原部長は「私自身、元々製造現場に従事し、他の作業員とともに苦労してきた経験があった。その話を社長に伝えることができたし、作業員からも信頼してもらえていたこともあって、皆協力的であった。現場で作業をしたことがない人間であったらもしかしたらもっと苦労したかもしれない」と回答していました。

佐藤宏隆コーディネータからは、「同じ仕事を経験しているというバックグラウンドと、今でも現場に足を運んで改善点を探しているという点が、円滑な導入に大きく作用した」と評されました。

 

[事例発表②]利益への意識改革!原価の見える化でDXに挑戦

 

続いて、株式会社オーカワパン(坂井市)の森本健嗣システム部兼Aralead事業部長より、DXに取り組む前の課題と成果についてお話いただきました。

営業部や商品開発部は売上を上げるために動いていましたが、製造部では生産状態を管理しきれておらず、売上目標を達成してもなぜか利益が伸び悩む、という状況を生んでいました。

森本部長は会社全体で粗利を意識するために製造部門の生産性向上と原価の見える化に取り組みました。まず手書きで管理していた従業員の作業記録フォーマットを刷新、正確な数値を把握し、問題点を可視化。そして製品ごとにすべて原価を再度見積もり直し、粗利を算出しました。

そこから生産計画や標準時間を設定し、製品ごとに原価が上下する原因を適切に説明できるようになったことで、店舗(納品先)ごとに数量変更や商品の入れ替えを行うなど、粗利を生み出すための戦略をとることが可能となりました。

さらに、営業時や社内での予実会議における参考資料などとしても活用できるようになり、営業・商品開発・製造部門一体となって「利益を生む」ことへの意識改革に成功しました。

同社の製造原価管理システム「Aralead(アラリード)」は、DX化を加速させるため近畿経済産業局の補助金を利用し、クラウド型Webシステムとして開発されました。作業時間の記録や焼き色の管理などを、紙からタブレット端末での入力・確認に置き換えたことで現場の情報をしっかりデータとして蓄積できる仕組みを構築しました。

これらの取組みの結果、2020年、2021年は2019年度と比較し、コロナ禍や材料費の高騰に苦しみながらも粗利率2.5%アップを達成。労働生産性も10~15%の改善に成功しました。

 

現場に設置されたモニターから現在の工程の作業時間がリアルタイムで表示され、同じ画面が事務所からでも確認できます。

 

DXの進め方について、森本部長は「社内に会社の利益に繋がる取組みであるときちんと説明した上で、データで示すことと実際に運用することまでを想定しながら進めることが大事」とし、「社長からの理解が得られたことが大きかった。また部長という立場で、ある程度の権限を持っていたことも良かったのでは」と振り返っていました。

 

今回はZoomのチャット上で随時質問や意見を受け付けながら進行しました。

 

最後に、2社からの事例紹介を聞いた上で、「中堅・管理職に求められるDX推進のためのスキルは何か?」をテーマに参加者から意見を募りました。

 

特に見受けられたキーワードは「根気」や「ヒアリング力」。様々な人の意見を聞きながら、途中で放り出すことなく取り組むことができる人材がDX推進には必要だと考える参加者が多く見られました。

集まった意見を踏まえて、武生製麺の西原部長は「(DX推進には)どうしても社内の協力が必要。一方的な推進では反発を受けることになる。常日頃から『こんな風に改善したい』というイメージを共有すべく、話し合う時間を増やしていくことが重要」と自身の考えを述べました。

オーカワパンの森本部長からは「コミュニケーション力や社員を巻き込む力ももちろん大切だが、DXの具体的なイメージ、ビジョンを持っていることが1番。それがないといざ壁にぶつかった時にくじけてしまう」とDX推進におけるアドバイスをいただきました。

最後に、佐藤コーディネータは「様々な人と交渉ができる権限を持った人材が社内に必要で、トップはそのような権限をいかに与えるのかがポイントになるのでは」とまとめました。

 

※第4回「DX寅の穴」は2023年3月15日(水)の開催を予定しています。詳細はコチラ