石黒建設株式会社
代表取締役社長 齊藤泰輔さん(右)
執行役員 土木本部副本部長 寺嶋澄男さん(左)
土木本部 工事部工事課 副課長 岸本沙野香さん(中央)
建設業界は人手不足問題に加え、働き手の高齢化が深刻です。
石黒建設㈱ (福井市西開発3-301-1)は、2016年に国土交通省が生産性向上を目的に掲げた「i-Construction(アイ・コンストラクション)」という指針に早くから着目し、ICT機器の活用による現場のDXを加速させています。
今回は「ICT活用工事成績優秀企業」にも選定された同社の取組みについて𧦴藤社長に伺いました。
ICTを活用した施工にいち早く着手
建設現場では人手不足によって、従来の施工方法をこれまで通り進めることが困難になりつつあります。
土木施工では、現地周辺の調査を何時間もかけて歩いて行い、次に平面の設計図を作成して土量を算出、さらに建造物の高さや位置の基準・目印となる杭を打つ丁張りといった準備段階から多くの作業が必要です。
そのような状況の中、国土交通省の揚げた「アイ・コンストラクション」という指針が発せられたことをきっかけに、その当時役員を務めていた坂井専務がリーダーシップを発揮して社内をまとめ、積極的なICT機器の活用に乗り出すこととなりました。そして、寺嶋副本部長と岸本副課長が旗振り役となってICT施工の実施を推進しました。
土木施工で効果を発揮するICTツールたち
土木施工の工程には、大きく分けて現地調査・測量、設計・計画、施工、検査があります。まずドローンや地上型レーザースキャナー(TLS)を地形の調査に利用することで、範囲にもよりますが今まで数日かかっていた測量を1~2時間で終えることができるようになりました。さらに、上空から撮影した画像データを3Dモデル化ツールに取り込むことで敷地の面積や起伏、盛土量を自動で算出することも可能です。
ドローン等で撮影した画像をもとに、3Dモデル化ツール「CIM」で構築された建設現場の3D イメージ。 工事施工の手順やどの重機を使って作業するのか、また土台を作った後の現場の状況等を細かくシミュレ ーションすることができます。
設計図や施工計画も以前は紙媒体で作成していましたが、「コンストラクションインフォメーションモデリング(CIM)」と呼ばれるツールによって3D図面となり、立体的に完成形や作業工程のイメージの共有が図れるようになりました。この見える化によって社内外の作業員同士の伝達ミスを回避することができ、協力会社にもこちらの意図が伝わりやすくなりました。
そして施工段階では、ICT建設機械を導入しています。事前に設計データを重機に入力することで、規定値通りに施工してくれます。これまで、重機の扱いは操縦者の技量に左右されていましたが、自動制御となったことで経験の浅い作業者でも操作でき、完成度のばらつきを少なくすることができました。また、丁張りを設置する手間を省くこともできましたので、工期の短縮にも繋がっています。
そのほか、VR技術にも目を付け、新入社員の安全教育やCIM同様に現場の施工イメージ共有、遠隔地からの現場状況の把握などに役立てています。
マシンコントロール型重機の画面(左)。 機械による施工が基準値を満たしているか3D画面上で確認できます。 緑色は基準値であることを示しています。
ICTの活用で建設業界のイメージを変える
ICT機器を導入した当初は、使い方が分からず大変苦労しました。ドローンを飛ばしてみたものの、データがうまく取得できず、新しいものへの拒否反応を示す社員も見られました。ただ、ICT活用によって品質を向上させつつ、今までより施工管理が楽になると丁寧に説明を重ねました。土木本部の2人が間に入って社内研修会を実施しながら、従来の施工方法からICT施工へと徐々に変化させることに成功しました。
当社では色々なICT技術を活用していますが、作業が効率化できているのは工事の一部分にとどまっています。深刻化することが必至な人手不足問題も見据え、工事全体にICTを波及させ、より生産性を向上させる必要があると考えています。すでに様々なツールが開発・提供されていますが、新たなICT施工にチャレンジするためには、それらに対応できるスキル・知識の向上が不可欠です。今後は、ICT施工に関わる社内の人材育成にも注力して参ります。
なお、当社では県内の大学や高校に出向き、実際のICT施工やその技術に触れてもらう出前授業を行っています。仮囲いの中での作業が多く、その実態があまり知られていない建設業界に興味を持ってくれる若者が少しでも増えてくれるよう、この取組みも継続していきたいです。
最新の測量技術を体験できる機会として学生にも好評です。