取材レポート
2021.09.10

デジタルツール活用の際は、課題抽出と導入目的を明白に

㈱ビジネス・アイ 代表取締役 栃川 昌文 さん

 

ITコーディネータである栃川氏は、中小企業が抱える課題解決の選択肢としていろんなデジタルツールを紹介しています。ツールを活用する際は、自社の課題抽出を行った上で、導入の目的を明白にする必要があります。今回は、実際に企業から受けた相談事例をもとに、デジタル化推進のポイントを伺いました。


事例①無料ツールでコスト、人的ミスの軽減に!

 旅行代理店(A社)の方から以前、次のような相談がありました。「クライアントから『顧客が宿泊するホテルの部屋を喫煙の有無などの希望を調べた上で手配してほしい』と依頼されたが従来のやり方では負担が大きい」。以前は案内文を作成し、印刷・郵送をすべて手作業で行っていたようです。A社は私のところに相談に来る前に、アンケートフォーム付きのホームページを制作しようと考えていましたが、数十万円もの費用を見積もられ、コロナ禍で資金繰りが苦しく断念していました。

 何に困っているのか整理すると「郵送してから回収、集計が手間」、「コストを抑えたい」といったキーワードが挙がりました。そこで、「Google」が提供する無料アンケートソフト「Googleフォーム」を紹介しました。Googleフォームはメール等でURLを送ればパソコンやスマートフォンから回答することができ、顧客が入力した回答は自動的にデータに落とし込まれるので、紙で集計したものを「Excel」等に打ち込む手間も省け、変換ミスもなくなりました。最初は私が設定方法等を指導して一緒に作成しましたが、その後は他の顧客からの似たようなニーズにも自分たちで対応できるようになりました。

 

福井商工会議所でもセミナー申込の受付にGoogle フォームを活用しています。

 

事例②目的を明確にコストをかける部分を検討

コーヒー豆専門店(B社)から「ECサイトを開設したい」という相談がありました。話を聞くと、店頭販売では商品が売れなくなってしまったので、コストを抑えつつ、なるべく早くネット販売を開始したいとのことでした。しかし、売れなくなってしまった商品を単にホームページ上で公開してもすぐに効果は現れません。そこで、マーケティングの基本にもとづき、「開設する目的」や「ターゲット層」、「自社商品の強み」等を洗い出すことにしました。

話をしていくうちに、「20~30代の若者を新規顧客に取り込みたい」、「素敵な写真を多く使用してビジュアル的にPRしたい」という目的が定まってきました。そこで、無料で運用でき、若者の利用率も高い「Instagram」や「LINE」などの活用を提案しました。ホームページ開設費用を抑えたことにより、SNSアカウント周知のための広報費にコストを割く余裕が生まれ、販売実績の成果を早く出すことができました。

ちなみに、最近はネットショップを無料で立ち上げることができるサービスもありますが、売上の数%が手数料として発生する場合があるので注意しましょう。

商品を見栄え良くPR するのに適したInstagram。チャット機能もあるので、工夫次第で予約受付もできます。(写真は福井市内にある雑貨店「pottea」のアカウントより)

 

最初はコストをかけず、徐々にデジタル化を広げる

今回、ITコーディネータとしてデジタルツールの活用を勧めた相談事例を紹介しましたが、あくまでそれは手段であり、ツールを利用することが目的ではありません。自社の課題解決や強みを伸ばすという目的に応じたツールを選ぶことが大切です。「ニーズに合ったツールがない」、「コストがかかる」と悩む方もいますが、万能なものはありません。百点満点を最初から目指すのではなく、まずは一歩を踏み出すことを目指してください。

今回の事例では無料・低コストのツールを紹介していますが、まず無料のものでトライできることから着手することでデジタルツール導入・利用のイメージが掴みやすくなります。そこからほかに自社業務の中でデジタル化できることはないか、視野を広げることにも繋がります。無料でできることに物足りなく感じてから(費用対効果に納得ができたら)コストをかけて、より使い勝手の良いツール導入を検討してください。

我々、IT専門家はどのようなデジタルツールが利用できそうかアドバイスしますが、デジタル化の第一歩は業務の棚卸しから始まります。業務上で困ったことを気軽に相談して欲しいですね。その課題解決の糸口として、デジタルツールの活用を考えていきましょう。