取材レポート
2022.08.09

社内の信頼を掴んだそば製造現場のデジタル化

株式会社 武生製麺
生産部部長 西原 俊樹  さん(左) / 商品部 永坂 裕紀 さん(右)

 

株式会社武生製麺(越前市真柄町7-37)は、自社ブランド「越前そば」の製造・販売だけでなく、製造ラインの見学やそば打ち体験、店内での飲食等を通じて福井のそばの魅力を発信しています。同社では、昭和55年から麺製造の自動化を開始。美味しい「越前そば」を年間通して安定的に提供するため、令和3年9月から工場内のIoT機器の稼働を本格的にスタートしました。現在は4つの設備が製造ラインを担っています。今回は、同社のデジタル化推進に尽力した西原部長から、詳しい経緯についてお聞きしました。


設備の停止理由を正しく把握したい

 

私たち武生製麺は、そばの自家製粉から製麺、つゆづくりまで一貫して行っています。こだわりの「越前そば」をより多くの方にお届けするために、機械設備のメンテナンスは重要です。

しかし、IoT機器を導入するまでは、機械トラブルが発生しても、それが経年劣化によるものなのか、麺が詰まったために発生する一時的な停止なのか正しく判別できずにいました。なぜなら、そばの生産数は集計できても、機械の停止時間やその原因は、作業員が自分の仕事を進めながら記録していたため、正確なデータ収集ができていなかったのです。

 

設備の稼働状況把握と作業員の目標管理を実現

 

そこで、パソコンの管理画面からすべての設備の稼働状況を、10分刻みで確認できるIoT機器の導入を図りました。それにあたり、県の「IoT・AI・ロボット等導入促進事業補助金」を活用し、システム構築にかかる費用140万円のうち、半分を補助していただきました。ここまではスムーズに進みましたが、現在のようにIoT機器が実働するまで丸3年かかってしまいました。

最初にIoT機器の開発を依頼した会社から納品されたものを工場に設置しても上手く機能せず、そこから別の会社に再発注することになってしまったり、現場の作業員に説明してもなかなか浸透しなかったりと、壁にぶつかることが多々ありました。

それでも途中で放り出すことなく取り組むことができたのは、私自身がかつて工場で作業してきた経験があり、作業員の頑張りを評価する明確な基準を数値化して見えるようにしたいと考えていたからです。

そこで、メーカーと相談しながら既存の設備に外付けできるIoT機器を利用し始めた結果、工場から離れた事務所でも一つ一つの設備が正常に稼働しているかどうか一目瞭然となりました。

同時に、1日の1人当たりの生産数や機械停止時の対応の早さ等も確認できるようになったので、作業員の正当な評価が可能となりました。

 

管理画面は極力簡素化し、色で現在の機械設備の状況が確認できます。例えばDラインは「稼働中」を示す緑色が連続しており、停止もほとんどなく、順調にそばを生産できていることが分かります。

製造ラインを流れるそば。切れ端が詰まっていないかセンサーが感知します。

 

現場に寄り添い、周囲を巻き込んだデジタル化

 

IoT機器を活用したことで、得られた効果はほかにもあります。前年度の販売・生産実績と比較できるようになり、次年度の目標を立てやすくなりました。また、機械の停止から再稼働までにかかる時間をもとに、各作業員の作業効率を管理職側で把握することができ、研修・指導を効果的に行うことができるようになりました。社長からも「判断がしやすくなった」と好評です。

現場の作業員にも変化が見られました。はじめは設備の稼働・停止を知らせるボタンを押すように指示しても忘れられることがありましたが、最近は「次はこんなことができないか」と前向きな意見が挙がるようになりました。それから設置したのが回転灯付きセンサーです。これは材料の投入口付近に設置し、そば粉が詰まりそうになると光とサイレンの音で知らせる仕組みですが、再稼働にかかっていた30分を削ることができ、作業効率化に繋がりました。作業員にもデジタル化を自分事として捉えてもらえたと感じました。

実は私はそこまでシステム関係に詳しくなかったので、メーカーだけではなく、以前システム関係の仕事を経験したことのある商品部の永坂君にも協力してもらいました。操作方法や管理画面の見方等、彼が社内に伝達する役割を担ってくれました。

 

永坂さんが独学で開発した回転灯(左)。投入口(右)が詰まり、そば粉があふれる前にセンサーが感知。回転灯が起動し、サイレンが鳴ります。これらのIoT機器のおかげで年間1,083分もの停止時間を削減できました。

 

今回、周囲からの理解や協力を得ながらデジタル化を推進することができました。デジタルツールで様々なことができると分かると、どんどん意欲が湧いてきます。次は受発注・在庫管理システムの一元化に向けて動き出しています。